おはようございます。
さて、今日は、横領・不正領得行為を理由として解雇した事件について見てみましょう。
アサヒコーポレーション事件(大阪地裁平成11年3月31日・労判767号60頁)
【事案の概要】
X1は、Y社の洋酒部長であり、輸入洋酒の販売および保税事務を担当していた。
X2は、X1の部下である。
Y社に税関の立入検査があり、未通関商品の数量不足が判明した。
Y社は、X1らが横領したとして懲戒解雇した。
また、Y社がX1らを業務上横領容疑で告訴したため、X1は逮捕・勾留され(不起訴)、X2も取調べを受けた。
X1らは、懲戒解雇の無効確認を請求するとともに、無効な懲戒解雇およびY社がその事実を得意先等に書面で通知したこと、虚偽の告訴に関して、慰謝料を請求する訴訟を起こした。
Y社は、Xらの横領について損害賠償を請求する反訴を起こした。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は無効。
X1について慰謝料150万円、X2について慰謝料100万円が相当である。
Y社の反訴請求棄却。
【判例のポイント】
1 横領について、実際に在庫不足が存在したかどうか疑わしく、仮に在庫不足が存在したとしても、これがX1らの横領によるものであると認めるに足りる証拠はない。
2 懲戒解雇については、横領の事実が認められず、理由がない。
3 X1らの慰謝料請求については、懲戒解雇の判断が綿密な調査に基づいて行われたものでないことは明らかであり、懲戒解雇が重大な処分であることに鑑みると、軽率になされた懲戒解雇は不法行為を構成する。
4 Y社が懲戒解雇した事実を得意先等に書面で通知したことは、懲戒解雇が無効である以上、X1らの名誉を毀損する不法行為に該当する。
5 Y社がX1らを告訴したことは、合理的理由がないのに単なる憶測に基づいて告訴に及び、その後、当該犯罪事実が存在しないことが判明した場合には、当該告訴は不法行為を構成する。
社員の中に、横領等の疑わしい行為をしている者がいる場合、綿密な調査もなく、証拠が認められない場合に、懲戒解雇をすると、解雇は当然無効となり、さらに不法行為にも該当する可能性があります。
不正行為等により社員を処分する場合には、事実の確認、証拠の収集をしっかりと行いましょう。
軽率に懲戒処分をすると、社員から損害賠償請求をされますので、ご注意を。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。