おはようございます。
さて、今日は、試用期間中の解雇に関する裁判例です。
アクサ生命保険事件(東京地裁平成21年8月31日判決・労判995号80頁)
【事案の概要】
Y社は、外資系生命保険会社である。
Xは、Y社に中途採用され、期間の定めのない雇用契約を締結した(6ヵ月間の試用期間あり)
Xは、就労を開始したが、試用期間中に、経歴詐称の事実が発覚し、Y社から解雇(本採用拒否)の意思表示を受けた。
解雇理由書には、(1)Xが採用の前年にZ社で就業していた事実とZ社と係争中である事実をY社に事前に伝えていないこと、(2)それは重大な経歴であり、Y社の採用選考結果に多大な影響を与えるものであること、が記載されていた。
Xは、Z社での就労は3週間にすぎない、経歴を偽る意図はなく解雇権の濫用であるなどと主張して、提訴した。
【裁判所の判断】
解雇権の濫用に当たらず、本件解雇は有効。
【判例のポイント】
1 経歴の虚偽があれば、これを信用した採用者との信頼関係が損なわれ、採用した実質的理由が失われてしまうことも少なくないから、意図的に履歴書等に虚偽の記載をすることは、当該記載の内容如何では、従業員としての適格性を損なう事情であり得る。
2 XがZ社での就労状況や係争を明らかにしなかったことは、Y社がXの採否を検討する重要な事実への手掛かりを意図的に隠したもので、「経歴詐称」と評価するのが相当である。
Xは、「Y社がXに注意、指導をしたことはなく、解雇を回避するための努力もしなかった」と主張しています。
Xのこの主張に対し、裁判所は、以下のとおり述べています。
「履歴書等の虚偽記載によって生じる状態(信頼関係の破綻)は、単に業務能力の育成の問題ではないし、試用期間中であれば、むしろ解雇を回避する要請は本採用以後のときよりも緩やかであると解すべきであるから、Xの指摘する事情があるとしても、そのことで本件解雇が客観的に合理的な理由を書いているとはいえない」
経歴の虚偽記載があれば、すべて解雇事由となる、というわけではありません。
「記載内容の如何」によっては、です。
本件の経歴詐称は、わずか3週間という短時間の就労の隠匿でしたが、その会社と係争中であったことも隠していた点が大きかったですね。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。