Monthly Archives: 8月 2010

解雇1(T運送事件)

おはようございます。

今日は、解雇に関する裁判例を見てみましょう。

T運送事件(大阪地裁平成22年1月29日判決・労判1003号92頁)

【事案の概要】

会社は、女性事務社員2名をいじめ等の陰湿な行動によって退職に追い込んだこと、事務スキル向上の望みがないことを理由として、従業員Xを解雇した。

従業員Xは、いじめ等の事実について否定している。

会社は、事実関係の確認をしておらず、Xの直属上司がXに対して注意指導を行ったとは認められない。

Xは、解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、賃金の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

解雇は無効(会社側控訴)。

【判例のポイント】

1 Xの女性事務社員に対する言動に多少配慮の欠ける点があったことは否定できないが、いじめ等の行為を行っていたとまでは認められない。

2 仮に、Xのいじめ等があったとしても、会社が当該事実について、両者の言い分を十分に聴取した上で、Xに対し、明確な注意指導あるいは懲戒を行うなどして、Xの態度及び職場環境の改善等を図るべきであるが、これらの措置をとったとは認められない。

3 Xの事務スキル不足の事実は認められない。

会社としては、きっちりと事実確認をしなくてはいけません。

また、解雇する前にやるべきことがたくさんあります。

社長、いきなり解雇するのはやめましょう。

裁判になったらたいてい負けます(くらいに思っておいて下さい)。

あと、「能力が低い」という会社側の主張はほとんどの場合、通りません。

小さなミスを必死になってかき集めてきて、能力が低いと主張してくることがよくあります。

これまで、全くミスについて指導したり、処分しないで、「能力が低いから解雇」と言ってみたところで、ダメです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為3(吾妻自動車交通事件)

おはようございます。

今日は、組合員の不採用と不当労働行為に関する事案を見てみましょう。

吾妻自動車交通ほか1社事件(中労委平成21年9月16日命令・労判第991号180頁)

【事案の概要】

会社Aは、経営悪化を理由に解散。

解散に伴い、全従業員を解雇し、同社の事業を引き継いだ会社Bが組合員のみを不採用とした。

組合は、本件解雇及び本件雇入れ拒否が労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であると主張。

【労働委員会の判断】

労組法7条1号及び3号に該当する。

【命令のポイント】

1 組合員と非組合員との間に顕著な差別的な取扱いが行われているが、会社A、Bはこれを正当とする理由を格別主張していない。

2 本件雇入れ拒否は、組合嫌悪の念に基づき、組合及び組合員の排除を行ったものとみざるを得ない。

差別的取扱いについて、合理的な理由を主張しないのであれば、このような判断がされるのは当然です。

もう少し慎重にすすめたいところです。

補足。
7条3号の支配介入についても、不当労働行為意思の存在は必要とされています。

7条3号の支配介入の意思とは、「直接に組合弱体化ないし具体的反組合的行為に向けられた積極的意図であることを要せず、その行為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ、又は生じるおそれがあることの認識、認容があれば足りる」(日本IBM事件・東京高裁平成17年2月24日判決)。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為2(B学園事件)

おはようございます。

今日は、労働組合の副執行委員長の解雇と不当労働行為に関する事案を見てみましょう。

B学園事件(神奈川県労委平成22年4月13日命令・労判1004号180頁)

【事案の概要】

B学園は、労働組合の副執行委員長の教員Xを懲戒解雇した。

解雇理由は、Xが、中3の生徒Aと携帯電話の通話や大量のメール送信(少なくとも1964通)をするという不適切な指導をしたこと。

組合は、本件解雇が労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であると主張。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

 B学園が、Xの行為を教師として不適切と判断し、処分したことは理解できる。

不当労働行為意思に基づく処分と判断することはできない。
(7条1号の不利益取扱いにはあたらない)

→B学園がXの組合活動等を嫌悪して、また組合の弱体化をねらって本件解雇を行ったものとは言えない。
(7条3号の支配介入にはあたらない)

労組法7条1号本文は、以下のように規定しています。
「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。」

ここでいう「故をもって」とは、「そのことを理由に」、「そのことを動機に」という意味です。

これを一般に「不当労働行為意思」と呼んでいます。

不当労働行為意思の存在が、不利益取扱いが不当労働行為として成立するための要件です。

問題は、不当労働行為意思の認定方法です。

「意思」は、内心の気持ちですが、会社が、「あんた、組合員だから、解雇するよ」なんて言うわけがありません。

そのため、不当労働行為意思の認定は、さまざまな間接事実(状況証拠)から推認することによって行います。

今回問題となった、解雇は、客観的・合理的な理由があるということが重視されました。

これが、それほど重大な理由に基づかない解雇であれば、不当労働行為意思が認められる可能性があるでしょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為1(類型)

労働組合法は、「不当労働行為」と題して、労働組合や労働者に対する使用者の一定の行為を禁止しています。

労働組合法7条が規定している不当労働行為の具体的類型は以下のとおりです。

1 不利益取扱いの禁止(1号、4号)
労働者が労働組合の組合員であること、または労働者が正当な組合活動をしたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いの禁止

労働委員会への申立等を理由とする不利益取扱いの禁止

2 黄犬契約の禁止(1号)
労働者が労働組合に加入しないこと、あるいは労働組合から脱退することを条件とする雇用契約の禁止

3 団交拒否の禁止(2号)
正当な理由なく団体交渉を拒否することの禁止

4 支配介入の禁止(3号)
組合の結成・運営に対する支配・介入の禁止

これらの行為に対しては、労働委員会の救済命令の対象となります。

また、不法行為として、損害賠償が命じられる可能性があります。

会社としては、まずは法律が定めている不当労働行為の類型を理解しておく必要があります。

その上で、具体的なケースとして、いかなる場合に不当労働行為と判断されるかを把握しておく必要があります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

メンタルヘルス2(中小企業における対策法)

財団法人産業医学振興財団から「中小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の進め方に関する研究」(平成21年度研究報告書)が発表されています。

内容は、かなり詳しいです。

メンタルヘルス対策は、顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ丁寧に進めていくことが求められます。

継続雇用制度8(ブックローン事件)

おはようございます。

今日取り上げるのは、ブックローン事件(東京地裁平成22年2月10日判決・労判1002号20頁)です。

この事件は、直接的には、不当労働行為性が問題となっているケースです。

【事案の概要】

会社は、60歳を定年とし、継続雇用制度を採用していた。

会社には、3つの労働組合があり、いずれも過半数組合ではない(つまり、組合はいずれも労使協定の締結資格がない)。

そこで、会社は、過半数代表との間で、労使協定を締結し、選定基準を設けた。

継続雇用の具体的な手続きとしては、従業員は、定年到達日の3か月前までに継続雇用希望の申込みを行い、会社と協議すると流れ。

ここからが問題。

組合の1つが、会社に対し、度々、継続雇用制度を交渉課題として団体交渉を申し入れたが、会社は、一度もこれに応じなかった。

会社の言い分は、次のとおり。
「組合には、継続雇用に関する労使協定の締結資格がないから、団体交渉をしても無意味である」

また、組合員の1人は、会社の継続雇用制度に異議があるとして、継続雇用希望の申込みをしなかったため、この従業員は、定年退職となった。

①組合は、会社の団交拒否は、労組法7条2号の不当労働行為にあたる、
②定年退職となった従業員は、会社が継続雇用の措置をとらなかったことが同法1号または3号の不当労働行為にあたる、
として、大阪府労委に救済申立てをした。

府労委は、①については不当労働行為と認めたが、②については認めなかった。

その後、当事者双方から再審査の申立てがされたが、中労委は、いずれも棄却した。

そのため、当事者双方が中労委命令の取消しを求め、提訴した。

【裁判所の判断】

①は、不当労働行為にあたる。

②は、不当労働行為にあたらない。

【判例のポイント】

1 ①について
 会社が組合との間で、継続雇用に関する労使協定などや就業規則における継続雇用規定に定める基準よりも組合員にとって有利な基準を労働協約で別個に定めることは何ら妨げないのであるから、組合に労使協定の締結資格がないことが、団交拒否の正当な理由とはならない。

2 ②について
 従業員は、継続雇用規定に基づく継続雇用希望の申込みをしなかった結果、定年退職となったものであるから、会社が継続雇用しなかったことは不当労働行為にはあたらない。

以下、感想。
①については、会社側が労働組合法、高年齢者雇用安定法の解釈を誤ったと言わざるを得ません。

②については、上記事実関係からすれば、裁判所の判断は妥当。

この従業員が継続雇用制度に異議がありつつも、継続雇用希望の申込みをしていたとしたら、どうなっていたか?

できることならば、申込みだけはしておいてほしかったところ。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

メンタルヘルス1(具体的対応策)

メンタルヘルスについて、(財)日本生産性本部メンタルヘルス研究所が、「第5回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果」を発表しています。

是非、参考にしてください。

この中で、上場企業での具体的取り組み内容について紹介されています。

1 管理職向けの教育 70.0%

2 長時間労働者への面接相談 63.8%

3 休職者の職場復帰に向けた支援体制の整備 49.5%

4 一般社員向けの教育 48.6%

5 社外の相談機関への委嘱 48.0%

会社として、取り組みやすいところから始めることが大切だと思います。

メンタルヘルス対策については、顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ丁寧に進めましょう。

継続雇用制度7(過半数代表の適格性・選出方法)

おはようございます。

今日は、労使協定の当事者についての話です。

労使協定の一般的な話ですので、継続雇用制度に限った話ではありません。

労使協定の労働者側当事者は、

1 「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合

2 1のような労働組合がない場合は、「当該事業場の労働者の過半数を代表する者」です。

労働組合が優先される理由は、労働組合の方が過半数代表よりも、労働者の利益をより有効に代表するであろうという判断によります。

なお、1の「労働者の過半数を組織する労働組合」とは、当該事業場を単位に組織された労働組合(事業所別組合)や当該事業所における支部組織である必要はありません。企業全体を単位とする企業別労働組合や企業外の単一組合であっても構いません。

では、2の過半数代表の適格性・選出方法ですが、この点については、労働基準法施行規則が平成10年に改正されており、同規則6条の2第1項は、過半数代表者について、以下の2点を要求しています。

①「法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと

②「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること

トーコロ事件(最二小判平成13年6月22日労判808号11頁)は、労基法上のいわゆる三六協定の締結をめぐり、親睦団体の代表者が自動的に過半数代表になることはできないと判示しています。

労基法施行規則との関係でいえば、②の要件をみたしていませんよ、ということです。

過半数代表と労使協定を結ぶ場合には、上記①、②をみたしているかに注意しましょう。

へたしたら労使協定そのものが無効になってしまいます。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度6(京濱交通事件)

おはようございます。

継続雇用制度に関し、問題となった事件をもう1つ紹介します。

京濱交通事件(横浜地裁川崎支部平成22年2月25日判決・労判1002号7頁)です。

【事案の概要】

会社(タクシー会社)は、で、定年を60歳とし、再雇用制度を採用していた。

従業員は、タクシー乗務員として勤務していたが、会社の就業規則に定める再雇用基準を満たしていないことを理由とする再雇用を拒否された。

会社の各事業所のいずれにも労働者の過半数で組織する労働組合はなかった。

継続雇用制度の導入にあたり、労働者の過半数を代表する者は選出されておらず、会社が労働者側に対し、労働者の過半数代表者を選出するように要請したこともなかった。

会社は、「複数の労働組合の全組合員数の過半数との間で協定を結べば労使協定として有効に成立する」という労使慣行に則って協定を結んだと主張した。

再雇用を拒否された従業員は、再雇用拒否が無効であるなどと主張して、会社に対し、労働契約上の地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

請求認容(確定)

【判例のポイント】

1 会社には、労働者の過半数で組織する労働組合がなかった以上、高年齢者雇用安定法9条2項により継続雇用制度の導入措置を講じたとみなされるためには、各事業所ごとに全労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)との書面による協定により制度対象者の基準を定めて制度導入することが必要である。

2 会社において過半数代表者は選出されておらず、会社がなした労働者の過半数に満たない複数の労働組合との労使協定をもって制度導入に当たっての労使慣行として有効であるとはいえず、同法9条2項の要件を満たしていない。

結局、文言解釈をしたということです。
会社側代理人としても、なかなか厳しいところだったと思います。

過半数代表の適格性・選出方法についての問題は、最高裁判例(トーコロ事件)があります。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。

継続雇用制度5(FAQその2)

Q2 職種別に異なる選定基準や管理職であるか否かにより異なる選定基準を定めることはできますか?

A できます。

選定基準については、労使協定で定める定める必要があります。

労使間で十分協議し、労使納得の上で定められたものであれば、高年齢者雇用安定法違反とはなりません。

実際の対応は、顧問弁護士に相談をしながら慎重に進めましょう。