重要判例【横浜地判平成23年11月1日】41歳男子眼科医の死亡逸失利益4億7852円余ほか総額5億2853円余認定、横断禁止場所横断等で60%過失相殺

1 逸失利益について

亡Xの基礎収入としては、毎年所得の変動があることから、以上の4年間の平均値とするのが相当であり、その金額は以下の計算のとおり、5548万円である。

なお、基礎収入につき、所得金額から税金を控除すべきかについては、被害者が稼働し所得を得た上で納税するのが事故のなかった場合の本来の状態である以上、所得税法上、賠償金に課税されるか否かという国との間の関係とは無関係に、その前段階において被害者が取得すべかりし利益相当額を賠償すべきものと解するのが相当であるから、基礎収入から税金を控除すべきではない(最判昭和45年7月24日)。

亡Xの扶養者は妻である原告A1名であり、(なお、母も扶養していたというが扶養の事実及びその程度は立証されていない)、亡Xの収入は平均収入額をかなり上回っていることから、税金の負担額も平均成人男性の負担をかなり上回っているものと推認できるが、他方、収入が増加しても生活費にかける金額は収入に比例して増加するものではなく、むしろ、生活費が収入に占める割合は(ブランド品の購入など収入に見合った生活費の増額があることを考慮しても)高額所得者ほど低下していくものと思われること、また、生活費控除率は、個々の被害者の生活実態を審理判断することが困難であることから被害者の家族構成・属性により一定割合を用いることとされており、その実態としては調整機能的役割を担っていることなどをも考慮すれば、生活費控除率は40%とするのが相当である。

2 過失相殺について

本件は、丁字路交差点であるが、横断禁止規制がありその旨の規制が標識等により認識できたこと、片側2車線の幹線道路で4車線の車道の幅員が14.2㍍であること、30~35㍍のところに横断歩道橋が設置されていること、歩車道はガードレールで区切られていること、以上の状況からすれば、交差点であっても、走行する車両に本件国道を横断する歩行者がいることを予想して走行する一般的注意義務は認められないこと、亡X及び被告の過失割合を検討するにあたっては、【33】図に近い状況にあるものといえる。

よって、基本過失割合は亡X30:被告70とするのが相当である。

これに加えて、①本件事故の発生は深夜であり、付近の照明は十分とはいえず、さらに亡Xは全身黒い服装をしていたことなどから、およそ43㍍手前付近に至って初めて発見が可能だったのであるから、時速60㎞(停止距離33㍍、摩擦係数0.7、反応時間0.75秒の場合)程度で走行していた被告車にとっては、発見後の回避措置に余裕がないこと、②亡Xは車道幅員14.2㍍で横断禁止規制のある幹線道路を、付近に利用可能な横断歩道橋が設置されていたにもかかわらずあえて規制に反して横断したこと、③さらに、亡Xは、前照灯により走行してくる車両があることを確認し回避することが容易であるにもかかわらず、高度酩酊し、横断中に佇立するなど適切な回避措置のとれない状態であったことが本件事故の一因となっていると認められることなどの事情も併せ考慮すると、過失割合は亡Xが60:被告が40とするのが相当である。