重要判例【仙台地判平成24年2月28日】インプラント治療費、矯正治療費、将来のインプラント更新費・メンテナンス費の相当性、インプラントの耐用年数20年、メンテナンス費年2万9000円で余命分の賠償認定
1 インプラント治療について
原告に対するインプラント治療は相当であるとの意見が述べられており、原告の歯牙欠損の障害に対する治療としてインプラント治療は相当と認められる。
これに対し被告は、他に選択可能な安価な治療法があると主張するが、他に選択可能な安価な治療法である義歯については異物感等が強く咀嚼力に劣る等の、同じブリッジについては欠損歯の両側の歯を大きく削る必要がある等の各欠点に鑑みれば、いずれも原告の歯牙欠損の被害回復方法としては不十分であるから、インプラント治療が相当と言うべきである。
そして、インプラント治療の費用は本件交通事故後5年間の継続治療で合計135万7760円と認められるから、5年のライプニッツ係数を用いた次の計算始期による上記認定額の賠償がなされるべきと判断する。
135万7760円×0.7835=106万3804円
2 矯正治療費について
原告が本件交通事故により歯牙欠損の障害を受け、その治療としてインプラント治療が相当であることは、以上までに認定したとおりであるところ、インプラント治療を実施する前提として矯正治療が必要であることが認められる。
したがって、本件交通事故と矯正治療とは相当因果関係がある。
以上に対し、被告は、原告には本件交通事故前から重度の不正咬合があったため、本件交通事故と関わりなく矯正治療が不可欠であり、その費用の賠償は否定されるべきであると主張する。
しかしながら、現在、我が国において矯正治療は、口唇裂、口蓋裂、顎変形症の場合でなければ、不正咬合であろうとも健康保険の適用がなく、矯正治療の費用は一般に50万円から100万円程度と高額になるため、多くの一般家庭において、日常の咀嚼に支障がなければ、行われることが期待できない治療であるといえる。
しかるところ、本件全証拠によっても、原告が不正咬合により日常の咀嚼に支障を来しているとは認められないから、原告の不正咬合は本件交通事故と関わりなく矯正治療が不可欠であったとは言えず、本件交通事故と矯正治療とは相当因果関係があると言うべきである。
3 将来のインプラント更新費について
インプラント本体の耐用年数については、10年~15年は確実、現在は20年はもつだろうと考えられている旨の意見が述べられていることからすれば、メンテナンスを継続して行うことを前提として、インプラント本体の耐用年数を20年とするのが相当と認められ、そうすると、原告が本件交通事故から5年後の18歳時点で初回のインプラント植立がなされるとすれば、25年後及び45年後の2回のインプラント更新の必要性があると認められる。
被告は、インプラント治療が他の安価な治療法があるのにもかかわらず選択されること等からすれば、初回のインプラント治療をもって最終治療として扱うのが相当であり、将来のインプラント更新費の賠償は否定されるべきである旨主張するが、インプラントは、義手、義足等の装具に類する人工物であって、耐用年数を経過したときに更新する必要があるのは当然であるから、初回のインプラント治療をもって最終治療として扱うことはできない。