重要判例【名古屋高判平成27年2月25日】労災3級3号認定もブラックバス釣りで複数回入賞等から自賠責同様14級9号認定、損益相殺

1 後遺障害について

訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないものの、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することで、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とすると解すべきである(最判昭和50年10月24日)。

そして、運転者の首の右下部が固定されるとい控訴人車両のシートベルトの構造と、そのような固定状態で右側からの衝撃を受けたことにより、頭部の右側からの衝撃を受けたことにより、頭部の右側からの衝撃を受けたことにより、頭部の右側への瞬間的過屈曲が生じたとする控訴人の主張を認めるに足りる証拠はなく、推測の域を出ない上、本件事故は、低速走行中の車両同士が衝突したものであるから、控訴人が訴えるような諸症状が長年続くほどの強い衝撃が控訴人に加えられたとするには多大な疑問が残るといわざるを得ない。

しかも、控訴人に認められた頸椎の生理的前弯の消失は正常人にも認められる所見であるから、これをもって本件事故によって生じた他覚的所見とはいえないこと、控訴人に疑われた小脳扁桃の下垂は認められないこと、控訴人が訴える諸症状を裏付ける異常所見や他覚的所見は、複数の医療機関による検査の結果によっても認められないこと、労災保険における後遺障害等級3級の認定の基となったA意見書は、R株式会社の整形外科専門医・脊椎脊髄病医であるBの意見書及び脳神経外科専門医であるCの意見書に照らし採用できないこと、控訴人が訴える症状は、受傷当日と急性期にかけて強い症状が見られ、その後は次第に軽快して症状固定に致るという交通事故による受傷の場合に一般的に見受けられる経過とは異なる経過をたどっていること、控訴人は重篤な後遺障害を訴えながら、平成23年4月以降、度々U湖まで遠出して釣り大会で大型のブラックバスを釣り上げて入賞したり、自身で控訴人車両を運転したりしていることは、補正して引用した原判決が認定するとおりであるし、平成25年1月に行われたDの証人尋問では、控訴人は、平成22年11月に生まれた長男と一緒に本を読んだりブロックをやったりして遊んでいることも明らかになったことに照らせば、原判決が指摘するとおり、本件事故と相当因果関係が認められる後遺障害の範囲は自ずと制限されたものになるといわざるを得ないし、控訴人やその妻が主張ないし供述等する本件後遺障害の内容と実際の生活状況との間には、整合性を欠く部分があるというほかない。

そうすると、控訴人が訴える諸症状は、本件事故により発生した頭底部及び小脳付近の神経細胞の軸索のびまん性損傷が原因であると推測するのが合理的であるとする控訴人の主張を採用することはできず、本件事故と控訴人が主張する後遺障害との間の相当因果関係の存否については、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものということはできないから、控訴人の後遺障害の程度が後遺障害等級3級3号に該当するとの控訴人の主張を採用することはできない。

そして、控訴人が一貫して上記症状を訴えていることを勘案すれば、控訴人の後遺障害の程度は、後遺障害等級14級9号に該当するものと認めるのが相当である。

2 損益相殺について

被害者が、不法行為によって損害を被ると同時に同一の原因によって公的給付を受給した場合に、損益相殺的な調整をするのは、民法上の損害賠償義務と公的給付についての代位規定(労働者災害補償保険法12級の4第1項、国民年金法2条1項、厚生年金保険法40条1項)や、受給権者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で給付義務を免れる旨の規定(労働者災害補償保険法12条の4第2項、国民年金法22条2項、厚生年金保険法40条2項)の趣旨に照らし、損害と給付された利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を損害額から控除する必要があるからであり(最判平成22年9月13日)、受給者の主観によって、損益相殺的な調整の範囲が決まるものではない。

そして、上記公的給付が、労働能力の喪失に伴う損害てん補の趣旨を有することは明らかであるから、これと同質性のある休業損害及び後遺障害逸失利益から上記受給額を控除すべきである。

また、被控訴人らが主張する逸失利益額からすれば、上記公的給付額が逸失利益額を大幅に超過する結果になるとしても、上記公的給付は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、各実施機関が各自の判断に基づいて実施しているのであるから、自賠責における後遺障害等級認定と労災保険におけるそれとが異なり、被控訴人らが指摘する結果が生じたからといって、損益相殺的な調整の範囲が左右される理由とはならないというべきである。