重要判例【福岡高判平成26年7月18日】企業損害、代表取締役の休業損害
1 企業損害について
一般に、会社代表者の受傷による会社の逸失利益といった間接的な損害は、事故により通常発生する損害ということはできず、加害者において予見可能性がなければ損害として認めることはできないが、会社がその代表者の個人会社であって、その実権が同人に集中して、同人が会社の機関として代替性がなく、経済的に会社と代表者とが一体をなす関係にある場合には、代表者の受傷により会社が被った損害の賠償を請求しうると考えられる(最判昭43年11月15日)。
控訴人会社は、控訴人Aとその妻のBのみとで自宅を事業所として経営していたのであり、控訴人AとBのための支出が控訴人会社の経費として計上されている実態も見受けられることからすれば、控訴人会社と控訴人Aの一体性を認める余地がないわけではないが、そもそも、控訴人らが主張する本件各工事については、以下のとおり、控訴人会社に得べかりし利益があったと認めることは困難である。
本件工事1(C会社のオフィス工事)については、・・・当初の工期での施工はできなくなったことも窺える。しかしながら、上記各工事が順調に施工された場合に控訴人会社が得られる具体的な利益額については客観的な証拠はなく、得べかりし利益の存否及び金額を認定することは困難である。
・・・なお、一般に、交通事故による受傷により稼働できない会社役員に対して法人が支払った役員報酬等に関し、会社の反射損害として損害賠償が認められることはあるが、本件において、控訴人会社は、控訴人Aに役員報酬が支払われたことを認めておらず、証拠上も控訴人会社から控訴人Aに役員報酬の支払があったことは判然としない上、いわゆる反射損害に対する賠償を認めているのではないことは明らかであるから、これは考慮しない。
以上によれば、控訴人会社が本件事故により損害を被ったと認めることはできず、控訴人会社の請求は棄却せざるを得ない。
2 代表取締役の休業損害について
控訴人Aは、56歳(本件事故当時の年齢)の男性労働者の平均賃金を基に計算すべきであると主張するが、控訴人Aは控訴人会社を経営することにより実際に収入を得ていたのであるから、実収入を基礎として休業損害を算定すべきことになる。
・・・そうすると、税務申告上の報酬額は節税対策として低額に設定されており、実態に合わないものというほかなく、控訴人会社の売上総利益のうち相当部分が実質的には控訴人会社の売上総利益のうち相当部分が実質的には控訴人Aらの生計の基礎となっていたのであるから、これを勘案した額を休業損害算定に当たっての本件事故前の基礎収入とするのが相当である。
そこで、控訴人会社の損益計算をみると、本件事故前3年分である平成18年から平成20年の各年度の決算書によれば、各年度の売上高は平成18年度は約4908万円、平成19年度は約2609万円、平成20年度は約1425万円と安定せず、低下する傾向にはあったといえる。そして、本件事故日を含む平成21年度の売上高は約1119万円と低下した。
同じ期間の販売費及び一般管理費は、平成18年度は約777万円、平成19年度は約697万円、平成20年度は約590万円、平成21年度は約544万円であった。
こうした控訴人会社の収支、前述の支出の状況、経営実態等の本件の事情一切を勘案し、控訴人Aの本件事故前の基礎収入としては、年額400万円とするのを相当と認める。