重要判例【横浜地判平成26年12月26日】症状固定時期、大幅な赤字傾向にある自営業者の休業損害、後遺障害逸失利益
1 症状固定時期について
原告(女・25歳・トリマー業)は、本件事故により受傷後である平成21年4月7日から平成22年4月9日まで、A整形外科を受診し(合計25回)、同日、頸椎捻挫、胸椎捻挫、腰椎捻挫の傷病名により症状固定したことが認められる。
なお、B作成の医学意見書には、原告に施された治療が対症療法にすぎないなどとして平成21年9月25日には症状固定した旨の記載があるが、症状固定の有無については、各別の事情のない限り、継続的に問診・治療した専門医療機関の判断を尊重すべきところ、A整形外科の上記判断には明らかに不合理な点があるとは認め難いし、上記意見書は、原告を問診ないし継続的に診察したものではないことを考慮すると、直ちに採用することはできない。
2 休業損害について
本件事故前の所得金額については、原告は平成19年度に事業を開始したばかりであるから、同年度の所得金額と翌年(本件事故の前年)である平成20年度の所得金額の平均値を採用すべきところ、原告が事業を開始した平成19年度以降、休業期間(平成21年3月25日ないし平成22年4月9日)を含めた平成23年度までの所得は大幅な赤字傾向にあることは上記のとおりであるから、休業期間中の所得の減少は、専ら本件傷害による就労制限によるものではなく、原告の事業の経済効率の悪さ、社会・経済状況の変動及び同業者との競合等による受注減少という可能性も否定できない上、本件傷害が漸次回復することからすれば、原告の休業損害については、休業期間中の所得減少額のうち、7割の限度で本件事故との相当因果関係を認めるのが相当である。
3 後遺障害逸失利益について
上記のとおり、原告は、高校卒業後、Gスクールの全課程を了したこと、原告のトリマーとしての事業は、本件事故の前後を通して赤字状態が継続しているが、逸失利益を全面的に否定することは、無職者が求職活動中であった場合に逸失利益が認められることとの均衡を失すること、原告は、本件事故によって労働能力の一部を喪失しなければ、事業の赤字幅を縮小し得た可能性も否定できず、赤字幅(損失)を縮減できなかったことも「損害」と評価し得ること、原告は、本件事故当時20台後半(症状固定時に26歳)であり、職業選択の幅が相当にある年齢層であったことからすれば、民訴法248条の趣旨を考慮し、原告の基礎収入を平成22年度の賃金センサス(高専・短大卒)である年332万7100円の7割に相当する232万8970円であると認めるのが相当である。
このことは、赤字事業の場合でも、事業の好転を期待して継続する者もいれば、転職する者もいるのであって、前者を選択したことを理由に逸失利益を否定することは、結果的に加害者を利することになり、損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨に悖ることからも首肯することができる。