重要判例【横浜地判平成23年10月18日】「使用者に代わって事業を監督する者」、「監督について相当の注意をしたとき」(民法715条2項)の該当性
1 「使用者に代わって事業を監督する者」の該当性について
「使用者に代わって事業を監督する者」(民法715条2項)とは、客観的に観察して、実際上現実に使用者に代わって事業を監督する地位にある者をいう(最高裁昭和35年4月14日判決)。
被告Aは、被告会社の設立時から代表取締役の地位にあり、被告Bが被告会社の実質的な経営をし始めてからもその地位を変更せず、本件事故当時も代表取締役の地位にあったこと、本件事故が発生したころ、被告会社で勤務していたのは、被告Aのほかは、被告Bと被告Aの二男などのみであり、家族経営の会社であったことが認められる。
また、被告Aの本人尋問の結果によると、被告会社に関わる事故の始末書は、被告Aの名義で作成されていたと認められる。
そうすると、被告Aは、被告会社の代表取締役として、被告Bを現実に監督する地位にあった者であるということができるから、「使用者に代わって事業を監督する者」に該当すると認められる。
2 「監督について相当の注意をしたとき」の該当性について
被告Aは、本件事故当時75歳であり、仕事の現場には出ず、被告会社の事務所で電話番や顧客対応等をするのみで、被告会社の実質的な経営は被告Bが行っていたと認められるが、被告Aは、実質的な経営を行わなくなった後も被告会社の代表取締役の地位にとどまり、被告Bらからの仕事の相談にも乗り、被告Aの名前での仕事の注文もあったのであるから、被告Bを現実に監督することが求められていた者といえる。
しかも、被告Aは、平成16年10月27日に被告Bが仕事先の建築現場で突然意識を失って救急搬送されたことや平成18年11月4日に被告Bがダンプカーを運転中に意識を失いバス停に同車両を衝突させる物損事故を起こしたことを知っていたのであるから、その原因がてんかんであるということまで正確に認識していなかったとしても、被告Bが自動車の運転をするに当たって意識を失うことがあり得ることは認識していたものである。
そうすると、被告Aは、被告会社の事業の執行に当たり、被告Bが意識を失うなどして自動車事故を起こさないように万全の注意を払うべき義務があったというべきである。
しかるところ、被告Aはその点について被告Bに対して何らかの措置(被告Bが意識を失った原因を究明し、医師の助言に従い、一定の要件の下に運転を認めるなど)を執ったとは認められない(年1回健康診断を受けさせていたからいってその措置を執ったとはいえない。)から、被告Aが「監督について相当の注意をした」と認めることはできない。