重要判例【奈良地五條支判平成23年9月22日】関節の可動域測定方法、移動式クレーン運転士の労働能力喪失率(併合12級)
1 関節の可動域測定方法について
A病院での測定は、患部を十分間お湯で温め、理学療法士がストレッチをするなどの措置を経て行われていたのに対し、B病院ではそのような措置をすることなく測定されていた。
そして、A病院で原告の主治医であった甲医師は、照会回答書において、同病院では、原告の左肘の可動域が最大限確保されることを目標として治療方針が立てられ、治療が行われてきたこと、原告の負傷部位は、肘を十分に温め、疼痛を緩和し、伸縮性を高めた状態で計測すれば、可動域が大きくなることも十分考えられるものであること、このようにリハビリ時に可動域が大きく確保されていたとしても、治療終了時には一定程度の拘縮を生じ、可動域が狭まる可能性が否定できないこと、転院などで一時的にリハビリが十分に行えない期間があるとその間に拘縮が進行することがあり得ることを指摘している。
この指摘に特に不合理な点は見当たらない。前記のとおり、原告が不正な目的で転院を企図してより重度な後遺障害等級を得たなどということが現実に考えられないことも考慮すれば、被告らが指摘する測定結果の変動は、その診断結果の信用性を失わせるものではないというべきである。
そして、関節の可動域測定方法が定型化されていて後遺障害等級認定の実務もそれを前提としているという関係はうかがわれないところ、患部を10分間お湯で温め、相当な痛みのあるストレッチをした上での測定結果よりも、そのような措置がない測定結果の方が、日常生活における動作障害の程度という意味での後遺障害の判定基準としてはむしろ相当であるといえるから、B病院での平成21年7月24日の測定結果をもとになされた後遺障害等級認定は、相当なものとして是認することができる。
2 労働能力喪失率について
交通事故賠償訴訟における労働能力喪失率認定に際しては、一般に自賠責における呼応胃障害等級に基づく基準が尊重されているが、この後遺障害認定はあくまで自賠責制度の運用にかかるものであり、裁判所の認定判断を拘束するものではないから、画一的に運用する必要はなく、被害者の後遺障害の実情、職業の特性等に応じて、自賠責制度で当該等級につき採用されているところよりも労働能力喪失率を高く認定判断することも可能である。
原告(男・症状固定時41歳)は、本件事故当時、約13年にわたり、移動式クレーン運転士として稼働していた。原告の傷病との関係では、レバー操作が問題となる。
・・・原告の負った後遺障害は、原告がこれまで長い時間をかけて経験を積み、技能を習得してきたところの移動式クレーン運転士としての稼働に対する支障が大きく、原告が長年にわたってそのために特化してきた労働能力を大きく失わせるものである。
したがって、同じ後遺障害等級でも、他の労働者一般と比較して労働能力喪失率を高く認定するのが相当である。
・・・原告の年齢からみて今後別の仕事の技能を身に付けて稼働し経験を積んでいくということが不可能とまではいえないことをも考慮し、喪失率としては、自賠責の後遺障害等級の11級に相当する20%を相当と認める。