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【交通事故㉗】自賠責保険と任意保険の関係は?
現在の実務では、交通事故における損害額の算定に際し、裁判所における損害額算定基準(裁判基準)のほかに、自賠責保険の支払基準(自賠基準)があります。
また、任意保険会社も独自に社内で任意保険の支払基準(任意基準)を儲けています。
このため、損害賠償の示談交渉にあたっては、上記3つの基準があることに留意するとともに、基準によって大きな差が生じることもあるということを認識しておくことが大切です。
2 自賠責保険の補償範囲
自賠責保険の補償範囲は、人身損害に対するものを対象としており、原則として物損については支払われません(自賠法3条、11条等)。
3 自賠基準(補償額)
自賠責保険の保険金額(支払限度額)は傷害による損害に対する保険金として上限120万円(費用項目により各々上限あり)、後遺障害による損害に対する保険金として各等級に応じて上限4000万円(介護を要する後遺障害1級)から75万円(14級)までが定められている。
4 任意保険
上記のとおり、自賠基準は、支払限度があり、また物的損害などについては填補されないため、裁判において認容されうる賠償額に満たない場合が多い。
その不足部分を担保するための保険が、いわゆる任意保険です。対人賠償に限れば、賠償額が自賠責保険の限度額を超えた場合に、任意保険でカバーする仕組みとなっています(任意保険の補充性)。
しかし、同じ人身事故に関して、自賠責保険と任意保険とを別々に請求するのは煩雑であるため、任意保険会社による一括払いの手続が設けられています。
つまり、対人賠償保険を契約している任意保険会社あるいは人身傷害補償保険の場合は被害者の任意保険会社が、自賠責保険分も一括して立て替え払いをするもので、支払いをした保険会社はその後に自賠責保険に求償することになります。
5 加害者が自賠責保険に加入していない場合
加害者が自賠責保険に加入していない場合、自賠責保険の限度内で、政府保障事業による填補が受けられる場合があります。
また、加害者が任意保険にのみ加入し、自賠責保険に加入していなかった場合には、自賠責保険の支払限度額については、加害者の個人負担となります。
なお、政府保障事業とは、自賠責保険が利用できない場合、すなわち、①ひき逃げ事故、②自賠責保険が締結されていない自動車の事故、③自賠責保険が締結されていても自賠責保険を利用できない事故(泥棒運転等)の被害者に対し、政府がその損害をてん補する制度です(自賠法72条)。
自賠責保険が利用できない場合には、加害者の対人賠償保険があるときでも政府保障事業への請求が必要となります。
てん補の対象・基準は、自賠責保険と原則的に同様ですが、政府保障事業は社会保障的要素が強いため、健康保険や労災保険等の社会保険による給付額及び損害賠償責任者からの支払額があった場合には、その金額を限度に損害のてん補はされません(自賠法73条)。したがって、被害者の代理人としては、先に政府保障事業への請求をすることとなります。