Warning: Undefined array key "qa" in /home/websc004/ik-law-office.com/public_html/wp/wp-content/themes/ik-law-office2021/functions/functions.view.php on line 49
【交通事故㉟】「素因減額」ってなに?
この素因が原因となって損害が拡大した場合には、加害者に損害全部を負担させるのは公平でないと考えられますので、過失相殺の理論を類推適用して、賠償額を一定の割合で減額する考え方が素因減額です。
減額の対象となる素因は、一般的に、既往の疾患や身体的特徴などの身体的(体質的)要因と精神的傾向である心因的要因に分けることができます。
2 身体的要因があるとされ、素因減額をされた例として、最高裁平成4年6月25日判決があります。
この判例のケースは、事故の1か月前に車内でエンジンをかけて仮眠中に一酸化炭素中毒にかかり入院したことがある被害者(個人タクシー運転手、57歳)が、高速道路上で停車中、追突されて頭部打撲傷の傷害を負い、その後、精神障害を発症して事故の3年後に死亡したというものです。
判決は、「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患を斟酌することができる。」として、被害者が精神障害を呈して死亡するに至ったのは、事故による頭部の打撲傷のほか、一酸化炭素中毒もその原因となっていたことは明らかであるとして、被害者の損害から50%を減額するのが相当であるとしました。
3 心因的素因があるとされ、素因減額をされた例として、最高裁昭和63年4月21日判決があります。
この判例のケースは、自動車に同乗中の主婦(52歳)が軽度の追突事故にあい、むち打ち症(外傷性頭頸部症候群)の傷害を負いましたが、その後、外傷性神経症を発症し、10年以上も入・通院して治療を継続したというものです。
判決は、「身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害がその加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、・・・民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる。」として、事故後3年間の損害について事故との相当因果関係を認めたうえ、被害者の特異な性格、自発的意欲の欠如等が症状の悪化と固定化を招いたとして、損害のうち4割の限度で加害者に賠償責任を負わせるのが相当であるとしました。
4 素因減額の割合については、具体的な基準があるわけではなく、①疾患の種類、態様、程度(当該病的状態が平均値からどれほど離れているか、その病態除去のためにどの程度の医学的処置が必要か、事故前の健康状態(通院状況等))、②事故の態様、程度及び傷害の部位、態様、程度と結果(後遺障害)との均衡等を個別具体的に検討して、損害の公平な分担という損害賠償法の基本理念の観点からその割合を算定することになります。