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【交通事故⑲】物損について損害賠償請求したいのですが・・・
実務においては、原則として、修理費が損害となります。
車両の損害については、修理費と車両の時価のいずれか低い方を賠償すればよいとされています。
つまり、被害車両の修理が可能で、かつ中古車価格(車両は登録と同時に中古車と評価されます。)より低い場合は、原則として加害者は修理費相当額を賠償すればよいことになります。
裁判例を見ますと、①新車購入の翌日の事故(横浜地裁小田原支部昭和51年10月29日判決)、②6日後の事故(札幌高裁昭和60年2月13日判決)、③2週間後の事故(東京高裁昭和52年3月15日判決)、④2か月後の事故(東京地裁昭和51年11月12日判決)で、いずれも新車購入費用を認めていません。
この点、最高裁昭和49年4月15日判決によれば、被害車両を売却し、売却差額を事故と相当因果関係ある損害として請求できるためには「物理的又は経済的に修理不能と認められる状態」または「その買替えをすることが社会通念上相当と認められること」が必要であるとされています。
「経済的に修理不能」なときとは、修理見積額が当該車両の価格を超える場合をいいます(東京地裁昭和59年3月30日判決)。
当該車両の価格については、原則として、当該車両と同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべきとされています(市場価格方式・最高裁昭和49年4月15日判決)。
中古車価格については、市販の自動車専門誌やいわゆる「レッドブック」(自動車公正取引協議会認定『中古車価格ガイドブック』)などが参考になります。
また、被害車両を買い替えることが「社会通念上相当と認められる」場合とは、フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められることを要するとされています(最高裁昭和49年4月15日判決)。
2 修理が不可能であるかまたは著しく困難である場合には、買替えが認められ、事故時の当該車両の時価相当額と売却代金(被害車両の下取り代金、スクラップとして出したときはその代金)との差額(買替差額費)を請求できます。
3 「評価損(格落ち損)」については、【交通事故⑳】をご参照下さい。
4 「代車使用料」については、【交通事故㉑】をご参照ください。
5 「休車損」は、稼働していれば得られたであろう利益のことで、営業車であれば相当な範囲で認められます(最高裁昭和33年7月17日判決)。
具体的には、タクシーや営業用トラック等(緑ナンバー等)の場合は、休車車を認めるのが普通です。
休車損が認められる期間は、代車の場合と同様、修理ないし買替えに必要な相当期間です(山形地裁昭和61年12月25日判決)。緑ナンバー取得等のために時間がかかった場合にはそれも相当期間といえると思われます。
休車損の算定は、1日当たりの売上高(事故前3か月ないし1年間の平均値)から諸経費(ガソリン代、オイル代等の変動経費)を除き、これに相当な休車期間を乗じて行います。
具体的には、被害者の確定申告等で1日当たりの利得を立証し、これを車両の所有台数で除する方法や、1台当たりの売上げから経費を控除し、1日当たりの利益を立証する方法等がとられています。
なお、予備車両(遊休車)があるときは、休車は発生しないので、代替車両を保有していない事実も主張する必要があります。
裁判例を見ますと、貸切大型バスの休車損を認めたもの(大阪地裁平成10年12月17日判決)などがあります。
6 その他の項目についても、妥当であるとみなされる範囲で損害と認められます。
裁判例を見ますと、①買替えのため、重複して必要になった登録手続関係費(取得税、重量税など)のうち、すでに納付済みの自動車税、自動車重量税、自賠責保険料を否定し、新規乗用車の車検手数料および車庫証明費用を認めたもの(東京地裁平成6年6月24日判決)、②自動車取得税を認めたもの(名古屋地裁平成10年10月2日判決)、③保管料を認めたもの(大阪地裁平成10年2月20日判決)、④レッカー代(神戸地裁平成12年1月27日判決)、⑤車両の引取り費用を認めたもの(大阪地裁昭和54年4月10日判決)、⑥代替車看板文字代を認めたもの(名古屋地裁平成6年11月30日判決)、⑦廃車料、車両処分費を認めたもの(東京地裁平成9年1月29日判決)、⑧時価査定料を認めたもの(大阪地裁昭和62年1月30日判決)、⑨荷台、クレーンの載せ替え費用を認めたもの(東京地裁平成11年2月5日判決)などがあります。
7 なお、物損に対する慰謝料は原則として認められません。
これは、財産権を侵害されたために精神的苦痛を被ったとしても、財産的損害について適正な損害賠償がなされれば、それによって精神的苦痛も原則として回復されたと解されているからです。
それゆえ、裁判例においても、物的損害について慰謝料を認めたものは多くありません。交通事故で死亡した競走馬に関し、その飼育者が慰謝料を請求した事案においても、死亡した馬は売却を予定された商品として以上の何らかの特別の価値を有するものではないとして、慰謝料を認めませんでした(札幌高裁昭和56年4月27日判決)。