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【交通事故⑯】休業損害っていくら請求できるの?

休業損害はいくら請求できるのですか?
休業損害とは、交通事故がなければ被害者が働いて得ていたと予想される労働収入のことです。休業損害は、被害者の働き方によって算定方法が変わります。

休業損害は、事故当時の収入に休業日数を乗じて計算されます(休業損害=1日の基礎収入×休業日数)。

もっとも、受傷後、治癒(症状固定)までの間に症状が漸次軽快していくことから、主婦などの場合には、労働能力の段階的な喪失割合(たとえば、受傷後治癒するまで10か月を要した場合、当初の入院中の3か月間は100%、その後通院中の3か月間は50%、その後治癒するまで通院中の4か月間は30%の労働能力喪失)に応じた休業損害を認める例もあります(休業損害=1日の基礎収入×労働能力喪失割合×休業日数)。

1 給与所得者

給与所得者は、事故前3か月の平均給与を基礎として、自己によって休業したことによる現実の収入減が休業損害となります。

有給休暇を使用したときも、休業損害と認められます(神戸地裁平成13年1月17日判決)。

また、休業に伴う賞与の減額・不支給、昇給・昇格遅延による損害も休業損害として認められます(東京地裁昭和46年9月28日判決、東京地裁昭和54年11月27日判決)。

なお、会社役員の報酬については、労働に対する対価である労務対価のみが休業損害として認められ、利益配当部分は原則として損害と認められません(大阪地裁平成7年2月27日判決)。

給与所得者の逸失利益に関しては、【交通事故㉛】をご参照ください。

2 主婦等家事従事者

主婦のように賃金を定期的に受け取っていない人に対しても、休業損害が認められます(最高裁昭和49年7月19日判決、最高裁昭和50年7月8日判決)。

算定にあたっては、「賃金センサス」が基準となります。

「賃金センサス」とは、厚生労働省が毎年調査するもので、男女の別や年齢、職業、学歴などによる平均賃金などを調査した統計のことをいいます。

具体的には、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金額を用いる例(大阪地裁平成18年10月18日判決)と、被害者の年齢に対応する年齢別平均給与額を用いる例(名古屋地裁平成17年1月14日判決)とがあります。

また、専業主婦のうち高齢者については、全年齢平均賃金によることを原則としつつ、年齢、家族構成、身体状況および家事労働の内容などに照らし、生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する労働を行い得る蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には、年齢別平均賃金を参照して適宜減額されます。

これに対し、有職主婦の場合は、現実の収入額の方が女子労働者の平均賃金額より高い場合は、現実の収入額を基礎として算定しますが、現実の収入額が賃金センサスの女子労働者平均賃金より低いときは平均賃金を基礎として算定するのが判例の傾向です(大阪地裁平成18年10月18日判決)。

なお、有職主婦の場合、通常、家事労働分の加算は認められていません。

3 個人事業者(事業所得者)

自営業者(商業・工業・農林・サービス業等)、自由業者(弁護士・司法書士・税理士・開業医・著述業・芸能人・プロスポーツ選手等)などの休業中の固定費(家賃や従業員給料)は、事業の維持・存続に必要なもので、実際に収入減があった場合に限り認められます(東京地裁平成11年10月29日判決)。

個人事業者の基礎収入は、前年度の所得税の確定申告書によって立証しますが、業績に変動がある場合は、数年間の実績を平均して計算することもあります。

確定申告をしていない場合は、事業の実態に応じて、賃金センサスの平均賃金または平均賃金を減額した金額を基礎に計算することが多いです(名古屋地裁平成10年8月7日判決)。

4 失業者

原則として、失業中の場合には、休業損害は発生しません

失業者には、現実の収入減がないからです。

もっとも、事故前に就職が内定していて、具体的に仕事に就く可能性が高かったと考えられる場合や、就職活動を行っていたなどの事情が認められるときには、休業損害を認めるのが一般的です。

この場合、基礎収入は、就職が内定している場合は就職したときに得られる見込みであった給与額が、それ以外の場合は失業前の収入を参考として賃金センサスの平均賃金かこれを下回る額が使用されることが多いです。

裁判例を見ますと、①独身53歳無職男性につき、過去に有職で妻帯していたこともあり、何らかの収入を得る蓋然性があるとして賃金センサス男性学歴計54歳平均を基礎に、生活費控除率を60%として認めたもの(福岡地裁飯塚支部昭和63年8月30日判決)、②会社に勤務する予定であった22歳男子について、入社後の給与を基礎として2.5か月間の休業損害を認めた例(東京地裁昭和60年11月27日判決)、③定年退職後、無職であった60歳男性に、退職会社に再就職予定として休業損害を認めた例(京都地裁平成12年4月13日判決)などがあります。

5 学生、幼児など

学生や幼児も、現実の収入減がないため、原則として休業損害は認められません

ただし、学生がアルバイトによって実際に収入を得ているような場合には、交通事故によって働けなかった期間の収入は、休業損害として認められます

裁判例を見ますと、①高校1年生の男子が、新聞配達のアルバイトをしており、高校卒業まで継続する予定であった場合に、事故時から卒業時までのアルバイト料損失分を認めた例(京都地裁昭和56年5月27日判決)、②高校2年生の男子が、スーパーでアルバイトをしており高校卒業まで継続する予定であった場合に、事故時から高校卒業までアルバイト収入の休業損害を認めた例(宇都宮地裁昭和56年9月8日判決)などがあります。

また、治療が長期にわたり、学校の卒業および就職が遅れた場合には、その間の減収分(給与損害)の休業損害が認められます

裁判例を見ますと、高校1年生の女子が、受傷のため1年間休学した後に大学に進学した場合に、賃金センサス大卒女子労働者20歳ないし24歳の平均賃金の1年間分の損害を認めた例(横浜地裁昭和57年1月28日判決)、②高校2年生の女子が、受傷のため高校を3年、大学を1年の合計4年休学した場合に、賃金センサス大卒女子労働者20歳ないし24歳の平均賃金の4年間分の損害を認めた例(東京地裁昭和56年11月24日判決)、③大学4年生の男子が、受傷のため1年間卒業が遅れた場合に、賃金センサス大卒男子労働者20歳ないし24歳の平均賃金の1年間分の損害を認めた例(東京地裁昭和56年11月30日判決)などがあります。