労働時間121 労働者が他の事業主の下でも労働しており、労働時間を通算すると労基法32条所定の労働時間を超えることを事業主が知らなかったときは、労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負わないとした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、労働者が他の事業主の下でも労働しており、労働時間を通算すると労基法32条所定の労働時間を超えることを事業主が知らなかったときは、労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負わないとした事案を見ていきましょう。

タイミー事件(東京地裁令和7年3月27日・労経速2593号3頁)

【事案の概要】

Y社は、アプリケーションソフトウェアを利用して、日雇い労働者を求める事業者(求人者)と求職者との間の労働契約の成立をあっせんする、「Timee(タイミー)」と称するマッチングサービスを提供している。
本件は、Xが、本件サービスを利用して事業者(求人者)との間で労働契約を締結し、同契約に基づいて就労したが、併存的債務引受により当該事業者のXに対する賃金支払債務を負担するY社から賃金が支払われていない旨主張して、Y社に対し、未払賃金1675円(割増賃金335円を含む。)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働者が複数の事業主の下で労働に従事し、それらの労働時間数を通算すると労基法32条所定の労働時間を超える場合には、労基法38条1項により、時間的に後に労働契約を締結した事業主はその超えた時間数について割増賃金の支払義務を負うとされているが、当該労働者が他の事業主の下でも労働しており、かつ、同所での労働時間数と通算すると労基法32条所定の労働時間を超えることを当該事業主が知らなかったときには、同事業主の下における労働に関し、当該事業主は、労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負わないものというべきところ、本件では、XがA社において勤務していた間、事業主であるA社が、Xからの申告等により、他の事業主の下における労働時間と通算すると原告の労働時間が労基法32条所定の労働時間を超えることを知っていたとは認められないから、この点からしても、Y社がXに対し労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負うものとは認められない。

2 これに対し、Xは、Y社の提供する本件サービスの内容等に照らせば、Y社及びA社は、他の事業主の下での労働について、Xからの申告等を待たずに自ら確認すべき義務があるといえるところ、かかる義務を怠ったのであるから、労基法38条1項による割増賃金の支払義務を免れないなどと主張する。しかし、この点に関してXが主張する事情等を踏まえても、Xが本件サービスの利用者であることをもって、当然に、A社あるいはY社において、労基法38条1項の規定を念頭に置いて、原告の申告等がない場合にも、自ら、他の事業主の下での労働についてXに確認する義務を負っていたものと解すべき根拠は見出せず、Xの上記主張は採用できない。

上記判例のポイント1の結論はこれでいいとして、どのような根拠に基づき、「当該事業主が知らなかったとき」という規範を導けるのか判然としません。

まあ、そもそも副業・兼業における労基法38条1項の行政解釈自体がなんだかな~という感じですけどね。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2238 年収が2倍にも3倍にもなる勉強法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、本の紹介です。

特に社会人になってからの勉強の重要性が説かれています。

大人になったら勉強をしないということで有名な我が国ですが、やっている人はやっています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

現状の遅れなど、何ということはない。最後に勝つのは、『エバー・オンワード(かぎりなき前進)』の精神なのだ。これは私のモットーでもある。これを可能にするのは、ただひたすら、愚直に物事を学んでいく以外に確実な方法はないのである。」(214頁)

何かを始めるのに、「遅すぎる」ということはありません。

遅すぎると言って、やらないほうがはるかに損失が大きいです。

better late than never.

年齢のせい、時代のせい、社会のせい、会社のせい・・・

そうやって言い訳をしているうちに人生は終わってしまいます。

一生懸命に生きる、ただそれだけです。

管理監督者66 コロナ禍での業績不振を理由に解雇した社員からの未払賃金請求につき、解雇は有効とした一方、管理監督者性を否定して未払残業代の支払を認容した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、コロナ禍での業績不振を理由に解雇した社員からの未払賃金請求につき、解雇は有効とした一方、管理監督者性を否定して未払残業代の支払を認容した事案を見ていきましょう。

X社ほか事件(東京地裁令和7年4月24日・労経速2596号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から令和4年9月21日付けで解雇されたこと及びY社での就労において管理監督者に該当するとして時間外労働及び休日労働に係る割増賃金の支払を受けていなかったことに関し、
(1)第1事件において、Y社に対し、〈1〉Y社についてはその完全親会社であるA社との関係で法人格が否認されるとの主張を前提に、Y社が整理解雇として行った本件解雇は無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後である令和4年10月から本判決確定までの月例賃金として毎月25日限り42万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉自らは労基法41条2号所定の管理監督者に該当しないと主張し、Y社での令和2年7月1日から令和4年8月31日までの期間の未払であった時間外労働及び休日労働に係る割増賃金として合計902万1321円+遅延損害金の支払を求め、
(2)第2事件において、第1事件における上記法人格否認の主張を前提に、A社に対し、
〈1〉XがA社に対しても雇用責任を追及することができると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の上記月例賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉Y社のXに対する割増賃金債務をA社も負うと主張し、上記902万1321円及び遅延損害金の支払を求め、
(3)第3事件において、第1事件における上記法人格否認の主張に加え、A社の旧商号と同一の商号で設立されたB社はA社との関係で法人格が否認され、かつ、会社法22条1項に基づく責任を負うとの主張を前提に、B社に対し、
〈1〉A社がXとの間で雇用責任を負う以上、B社もこれを負うものと主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と本件解雇後の上記月例賃金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、
〈2〉Y社に対する割増賃金債務をA社が負う以上、B社もこれを負うと主張し、上記902万1321円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、900万0959円+遅延損害金を支払え。
2 XのA社、B社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 株式の所有関係、役員派遣、営業財産の所有関係、専属的取引関係などを通じて親会社が子会社を支配し、両者間で業務や財産が継続的に混同され、その事業が実質上同一であると評価できる場合には、子会社の法人格は完全に形骸化しているといえるものと解する。

2 Y社は、まさに、A社との間で締結した本件オペレーション委託契約に基づき、A社から受託した本件ホテルの操業業務を行う法実体として存在していたものといえ、その法人格が目的に沿って利用されていたものというべきである。これらからすると、Y社の法人格が完全に形骸化していたと認めることはできない。

3 Y社は、従業員の解雇を回避するため、J社との間で、Y社の従業員の雇用継続を交渉し、全従業員についてY社とほぼ同様の労働条件によってJ社への転籍を可能とし、その結果、実際に、Y社の全従業員58名のうち74%に相当する43名が実際にJ社に転籍することとなったことが認められる。そして、Xも上記転籍の打診を受けたものの、本件ホテルで稼働していた当時の下位の役職の者が転籍先であるJ社においては自身の上役になるとの話を聞いたため、転籍を辞めることになったことが認められる。
これらに加え、Y社においては、この時点でA社から委託を受けて操業業務を行っている他のホテルは存在しなかったのであるから、配転可能な他の事業所等は存在しておらず、本件ホテルで稼働していたY社の従業員にとって、同ホテルでの稼働が継続できる上記転籍が最適な雇用継続の方法であったといえることからすると、Y社は、解雇回避努力義務を尽くしていたといえる。

4 Xは、管理職として、本件レストランの部下に当たる従業員について、そのシフトの作成、出勤時間の管理、業務割当などを行っていたものの(なお、このうちシフトの作成に関しては、Xが作成したシフト案をMが確認していたことが認められる。)、本件レストランで稼働する従業員のうち調理部門に属する従業員やパートについてのシフトの作成、出勤時間の管理、業務割当は行っていなかったことが認められる。
その上、Xは、本件ホテルにおいて毎週開催されていたFB週次会議に出席することが要求されていたものの、その参加者は、Y社において管理職とされた従業員に限られていたものではなく、一般職とされた従業員も参加していたことが認められるほか、上記会議の位置付けは、本件ホテルの日頃の操業業務に関する情報共有を目的としていたものであって、上記会議の議事録におけるXの発言を通覧しても、本件レストランの運営全体に関する発言は認められないことからすると、Xが経営者のいわば分身として本件レストランの運営を行う立場にあったものと認めることはできない
また、Xは、本件ホテルの料飲部門とQとの間の月次会議や、本件ホテルの経営に関するオーナー会議には参加していなかったのであるから、Xが本件レストランに関する業務を超えて、本件ホテルの経営上の決定に参画していたとも認めることはできない。
これらからすると、Xが本件レストランの責任者として付与された権限、責任は限定的であったものといわざるを得ない。

Xはレストランの責任者ですが、管理監督者性が否定されています。

役員でなく、労働者として、「経営者の分身」と評価できる方が世の中に一体どれほどいるでしょうか。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

本の紹介2237 レバレッジ・リーディング(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

著者は、「多読」を薦めています。

私も同じ意見です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

本当は本を読めば読むほど、時間が生まれます。本を読まないから、時間がないのです。なぜなら本を読まない人は、他人の経験や知恵から学ばないからです。何もかも独力でゼロから始めるので、時間がかかって仕方ないのです。」(46頁)

木こりのジレンマの話と同じです。

時間がないから本を読まないのではなく、本を読まないから時間がないのです。

物事の道理を知らないことが遠因となり、時間やお金を無駄にしている例は枚挙に暇がありません。

日々の時間の使い方が何年にもわたり積み重なり、その結果が人生を形成します。

解雇436 賃金額等を記した雇用契約書などの書面作成に応じなかった会社が、従業員に自宅待機命令後の出社命令違反などがあったとして行った解雇が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、賃金額等を記した雇用契約書などの書面作成に応じなかった会社が、従業員に自宅待機命令後の出社命令違反などがあったとして行った解雇が無効と判断された事案について見ていきましょう。

Y社事件(東京地裁令和7年4月30日・労経速2596号32頁)

【事案の概要】

本件は、令和3年10月にY社と労働契約を締結し、理容師として稼働していたXが、Y社に対し、上記労働契約における月毎の賃金額は35万円であり、同年10月分につき9460円、同年11月分につき2万円が未払となっていると主張して、労働契約に基づき、同年10月分の未払賃金として9460円及び同年11月分の未払賃金として1万8280円+遅延損害金、Y社による自宅待機命令により労務を提供することができなかったと主張して、民法536条2項に基づき、上記自宅待機命令期間中の未払賃金として11万7894円+遅延損害金、上記労働契約では交通費を支払う旨の合意がされていたと主張して、労働契約に基づき、交通費として2万8160円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社による令和4年3月23日付けの解雇が不法行為を構成し、逸失利益として210万円、慰謝料として50万円の合計260万円の各損害を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、260万円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、154万5634円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件自宅待機命令は、令和3年12月23日にXの施術内容について客が苦情を述べたことを契機として発せられたものであるが、同日以前にXが客から苦情を受けたとはうかがわれない。そして、Xに限らず、Y社の従業員において客から施術内容について苦情を受けることはあり、これまでX以外に無期限の自宅待機を命ぜられた者はいないことを踏まえれば、単発の上記出来事を契機に、本件自宅待機命令を発し、期限を定めずにXを就労させないこととする合理的な理由及び必要性があったと認めることはできない
そうであるとすれば、本件自宅待機命令はY社の業務上の都合により発せられたものというべきであり、Xは、これによって労務を提供することができなかったのであるから、民法536条2項により、これに対応する期間である令和3年12月23日から令和4年2月6日までの期間につき賃金請求権を有することとなる。

2 確かに、〈1〉Xは、令和4年2月に発せられた本件出勤命令に応ぜず、それ以後、労務の提供をしていない。そこで検討するに、本件雇用契約における賃金額については、原告が令和3年10月に被告で就労を開始した当初の頃から当事者間に認識の相違があり、Xは、本件雇用契約に係る労働条件を書面にするよう求め続け、このことは、Y社においても本件雇用契約に関するトラブルとして認識されていた。そうであるからこそ、Xは、同年12月にされた本件自宅待機命令が解除され、改めて本件出勤命令に応ずるに当たっても、本件雇用契約に係る労働条件を書面により明示するよう求めていたのであるが、Y社は、これに応じなかった。
使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならず(労基法15条・同施行規則5条)、その趣旨は、労働条件をめぐる紛争を回避することを含むものと解されるところ、上記のとおり、Xの就労中に労働条件である賃金額をめぐって既に紛争が生じていた。そうであるとすれば、Xが本件出勤命令に応じ、改めて被告での就労を開始するに当たって、労働条件を明示した書面の交付を求めたことは、上記法令の趣旨に沿うものであり、正当な要求であるといわざるを得ない。他方で、本件記録を精査しても、Y社が上記書面を実際に何らか準備したともうかがわれず、Xが本件出勤命令の前から継続して上記要求をしていたことを踏まえると、Y社がこれに応じなかったことに合理的な理由はうかがわれない

3 本件解雇は無効であり、使用者は、法令上、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金等の労働条件を書面等により明示しなければならないとされているところ、Y社は、Xから労働条件を明示した書面の作成を繰り返し求められ、この点について令和4年3月16日頃には労基署より是正勧告を受けるに至っているにもかかわらず、これに対応しないままだったのであるから、漫然と本件解雇に及んだといわざるを得ない。したがって、本件解雇は不法行為を構成するというべきである。
そして、Xは、本件解雇により、Y社において就労する機会を喪失しているところ、本件解雇後にX自身がそれにより被った損害を回復するために行った各種手続の利用状況、就職活動の状況や現に再就職に至った時期等に照らし、本件解雇によって生じた逸失利益としては、140万円(=35万円/月×4か月)と認めるのが相当である。

Y社が頑なに労働条件に関する書面の作成を拒否した結果、上記のような結論となりました。

賃金の支払いをせず、無期限の自宅待機命令が有効とされることはありません。

仮に賃金を支払っていたとしても、違法と判断されることもありますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2236 MRI分析でわかった 東大脳になる勉強習慣(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

帯には、「東大脳の特徴→言葉の記憶に関係する左脳の超側頭野が発達」と書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

お子さんをおふたりとも東大に入れたご両親に話をおうかがいすると、どんなに家計が苦しくても、本だけは無条件に買ってあげていたそうです。・・・お子さんたちの向学心がどんどんと旺盛になっていくと、次第に家計を圧迫していきます。そういう中でも、『たとえ衣食を切り詰めても、本だけは与えようと思った』とおっしゃいます。」(237頁)

今の時代、読書をする子どもがどれほどいるでしょうか。

周りを見渡しても、読書ではなく、スマホ等でゲームをやらせている親が大半ではないでしょうか。

無理もありません。

本を読み進めるというのは、根気が必要ですし、決して簡単でわかりやすいものではありません。

幼少期からの習慣の積み重ねの差が、10年後、20年後に目に見える形で明らかになります。

残酷ですが真実です。

配転・出向・転籍61 内部通報の調査過程で判明した事実を理由とする配置転換の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、内部通報の調査過程で判明した事実を理由とする配置転換の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

日本政策金融公庫事件(東京地裁令和7年4月15日・労経速2597号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、Y社の国民生活事業本部南関東地区債権業務室Y分室において定年後の再雇用職員として勤務していたXが、XをY分室からY社の国民生活事業本部Zセンターへ配転する旨のY社の命令は、配転命令権の濫用ないし公益通報者保護法が禁止する不利益取扱いに当たり無効であると主張して、Y社に対し、XがZセンターにおいて勤務する雇用契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、①令和5年3月23日の人事上の注意処分としての訓告は、Xの正当な権利行使を阻もうとする不当な意図に基づくものであって不法行為に当たると主張して、不法行為の損害賠償請求権に基づき、慰謝料等として110万円+遅延損害金、②本件配転命令は違法であり不法行為に当たると主張して、不法行為の損害賠償請求権に基づき、慰謝料等として110万円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの言動は、その内容の適否の問題にかかわりなく、態様として不適切なものであり、職場の規律や秩序を乱すものであったというべきである。また、月1面接等でのXの言動は、上司であるA分室長を長時間拘束し、その間、A分室長は、決裁や検印等の管理職業務を行うことができず、代わりにD副室長がその一部を代行せざるを得ない状況に陥らせていたものであり、業務への支障も生じさせていた。さらに、Xの言動により、A分室長は体調不良となり、令和5年3月25日付でY分室から異動することになった。このような事情を踏まえれば、Y分室の職場環境の改善のためには、Xを他の職場に異動させる必要があったものと認められる。

2 Xは、①本件訓告の理由において、Xが公益通報を示唆したことを不当な行為として評価していたこと、②Y社は、本件配転命令を決定する前に本件公益通報がなされたことを明確に認識していたこと、③Y社における定期異動の時期である3月末とは異なる異例の時期に本件配転命令が発令されていることを理由に不当な動機・目的をもってなされたものであると主張する。
しかし、①について言えば、すでに解決した事柄について、あえて繰り返し、脅すかのように「マスコミや個人情報保護委員会に言う」との発言をしたことを問題としているのであって、個人情報保護委員会に通報すること自体を問題視したものとはいえないし、②について言えば、Y社は、本件配転命令を決定する前に本件公益通報がなされたことを明確に認識していたとは認められず、③について言えば、Y社が本件配転命令を発令することを決定した時点において、本件公益通報がなされたことを明確に認識していたとは認められない以上、異例の時期に本件配転命令が発令されているとしても、本件公益通報に対する報復であることを推認させる事情とはいえない。

3 Xは、本件配転命令を受けたことにより、周囲の従業員からの奇異の目にさらされる精神的苦痛の他、通勤が片道30分、往復合計1時間増加したことにより、Xの両親の介護や娘の自立支援という家庭生活に多大な影響を被った旨主張する。
しかし、Xが「周囲の従業員からの奇異の目にさらされる」と感じる点があったとしても、それは本件配転命令に起因するものというよりも、Xの職場内での言動に起因するものというべきである。次に、通勤時間が長くなったことについてみるに、元々、通勤時間が片道1時間30分程度のところが2時間程度になったというものであることや、Xには転居を伴う異動が命じられる余地もあったこと等を考慮すれば、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえない。次に、家庭生活についてみるに、Xの両親の介護を主に担っているのはXの妹であるほか、Xの娘は配転後の就業地から遠くない場所に居住しており、本件配転命令により多大な影響を受けるものとはいえない。
以上の事情を踏まえれば、本件配転命令は、原告に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとはいえない。

公益通報と配置転換が時期的に近接していると、本件のような紛争に発展することが多いです。

配転命令の有効性に関する3要件について、具体的に主張立証をし、公益通報との因果関係を否定することが求められます。

配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介2235 1日15分勉強法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は本の紹介です。

最小の時間で最大の成果を得る」ことを目的とした本です。

ただで忙しい日常生活の中でいかに勉強時間を確保し、効率よくインプットを行うかは、現代社会における社会人の必須のスキルです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

語彙力に関しては、『語彙が豊富であればあるほど成功しやすくなる』と肝に銘じて、意識して語彙力を強化することが肝要です。アメリカでは、語彙力と経済力の相関関係が調査されており、その両者には強い相関関係があることが判明しています。」(133頁)

調査結果を見るまでもなく、語彙力と経済力との間に相関関係があることは容易に想像がつきます。

人は、認識している語彙によってしか物事を考えることができません。

換言すれば、語彙力の有無・程度によって、同じ社会で暮らしていても、見え方や感じ方が人によって異なるわけです。

この結果の差が年を重ねる毎に開いていき、両者の相関関係として表れるわけです。

配転・出向・転籍60 転籍合意と「自由な意思」の要否に関する裁判例(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、転籍合意と「自由な意思」の要否に関する裁判例を見ていきましょう。

富士通ほか事件(東京地裁令和7年3月21日・労経速2594号13頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結したXが、Y社らに対し、以下の請求をする事案である。なお、Xは、以下の(1)及び(2)の各請求について、同時審判の申出(民訴法41条)をした。
(1)Y社に対する請求
XがY社に労契法18条の無期転換申込権を行使し、かつ、XとY社との間の上記労働契約の使用者の地位をA社に移転(転籍)する旨のX、Y社及びA社との間の合意が無効又は取り消されるなどしており、Y社との間で期間の定めのない労働契約があるなどと主張して、Y社に対し、以下のアないしウの請求
ア 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 労働契約に基づき、令和5年3月から毎月10日限り、同年2月分以降の賃金54万2500円+遅延損害金の支払
ウ 令和2年9月26日から令和5年1月末日までの分の未払賃金(割増賃金を含む。)896万4171円+遅延損害金の支払
(2)A社に対する請求
仮に上記合意が有効に成立したとしても、A社との間で期間の定めのない労働契約があり、A社の解雇は無効であるなどと主張して、A社に対し、上記(1)アないしウと同じ内容の請求
(3)Y社らに対する請求
Y社らが共謀してY社の従業員が虚偽の説明及び強迫をして、Xに上記合意をさせた行為が不法行為であると主張して、不法行為(民法719条1項)に基づく損害賠償として、Y社らに対し、330万円+遅延損害金の連帯支払

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、XがY社らに対し、本判決確定の日の翌日から、毎月10日限り54万2500円+遅延損害金の支払を求める部分をいずれも却下する。
2 A社は、Xに対し、7万1899円+遅延損害金を支払え。
 XのY社に対するその余の請求及びA社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、本件合意が自由な意思に基づくものではない旨主張する。
この点に関連し、最高裁判決の中には、労働者の同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要するとするものがある(最高裁判所昭和48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁、最高裁判所平成28年2月19日第二小法廷判決・民集70巻2号123頁)。
しかし、これらの最高裁判決は、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無について、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基盤となる情報を収集する能力にも限界があることに照らし、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から判断されるべきものと解するのが相当であるとしたものであるのに対し、本件のように転籍の意思表示の有無が問題となる場面では、労働者は、転籍により従前の使用者の指揮命令下から離脱することになり、転籍に伴う不利益の内容を認識し得るといえ、本件は、上記の最高裁判決とは事案を異にするといえる。
もっとも、労働者の個別の転籍同意の有無については、慎重に判断すべきであるといえる。しかし、上記の事情からすれば、Xは、転籍の意味を相当程度理解した上で、Y社からA社に転籍する意図をもってY社及びA社との間で本件合意をしたものと認められる。また、Xは、F人事部長らから事実に反する説明や強迫をされたなどと主張するが、この点は、本件合意の有効性(錯誤無効や詐欺取消し等の成否)に影響し得るとしても、本件合意の成立の有無(転籍の同意の有無)に影響を及ぼすものとまではいえない。

転籍同意の有無については、慎重に判断すべきであるものの、「自由な意思」論をそのまま適用することは否定しています。

転籍を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介2234 仕事頭がよくなるアウトプット勉強法#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から13年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

タイトルは「勉強法」とされていますが、本の内容としては、単なる勉強法にとどまらず、社会人としての心構えが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

つまるところこちらが質問しているのは、『結論として売り上げはいくら?』ということ。このことを理解し、まず『結論ファースト』で話せるかどうかは、その人のロジカル度を見るポイントです。・・・『理由なんてものは、聞かれたら答えればいい』というのが私の考え。理由が知りたければ、向こうから効いてくるはずなのです。」(188頁)

これ、実際のところ、指導されたとしても、なかなか直りませんよね(笑)

人の話し方(答え方)や聞き方は、長年の癖なので、そう簡単には直らないのです。

質問されていることにストレートに回答できなかったり、聞いているときに「はい、はい、はい、はい」という相槌を連呼したり、途中で自分の話を始めたり(笑)

その人の話し方や聞き方を見れば、その人の人となりや知性を垣間見ることができるように思います。