本の紹介2160 あたりまりまえだけどなかなかできない42歳からのルール(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から15年前の本ですが、この歳になって読み返すとおもしろいですね。

30代前半のときに読んだ感覚とはまったく異なります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ぼくは、ビジネスの世界で生きるということは、不自由さから解き放たれて、自由を獲得するための戦いだと思っている。戦いに勝つために必要なことは、3つある。1つ目は、どこでもやっていけるだけの普遍的な力を身につけること。2つ目は、周囲から信頼されること。そして最後は、明確な意思とビジョンを持つこと。」(67頁)

「不自由さから解き放たれて、自由を獲得するための戦い」

みんながみんなそうだとは思いませんが、これはまさに私が弁護士を目指そうと思った理由です。

30代前半から、40歳になったときにどうなっているかという明確なビジョンを持ち、そのための準備と努力を重ねてきました。

自由でいるためには、自分に力をつけなければなりません。

誰かに(何かに)依存している限りは、真の自由を獲得することはできません。

依存は不自由への入り口なので。

一朝一夕にはいきませんが、権利のための闘争を続けるほかに手にすることができないものがあるのです。

労働時間110 運行開始前点検行為に基づく未払割増賃金等請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運行開始前点検行為に基づく未払割増賃金等請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

トーコー事件(大阪地裁令和6年3月8日・労判ジャーナル149号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、以下の請求をした事案である。

(1)有期労働契約の更新をせず雇止めしたことは違法である(労働契約法19条により更新される)旨主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求(請求1)
(2)(1)を前提に、労働契約に基づき、雇止め後である令和3年7月分から令和4年10月分まで(16か月分)の、月額11万円の賃金(合計176万円)の支払請求(請求2)
(3)(1)を前提に、労働契約に基づき、令和4年11月支払分(末日締め、翌月15日払)から本判決確定の日までの、月額11万円の賃金の支払請求(請求3)
(4)時給1300円との合意を口頭でしたにもかかわらず時給1100円しか支払われなかったと主張し、労働契約に基づき、未払賃金合計20万円の支払請求(請求4)
(5)令和2年9月分の賃金につき、被告の責めに帰すべき事由により労務の提供ができなかったと主張し、労働基準法26条に基づき、又は労働契約に基づく民法536条2項による、1か月分の給与11万円の支払請求(請求5)
(6)始業時刻前に、アルコールチェック等の作業を指示され、1日当たり30分の残業が生じていた旨主張し、労働契約に基づき、合計9万9000円の支払請求(請求6)

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1万4300円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、渋滞等のアクシデントに備えて早めに出勤していたことはうかがえる。しかし、出勤後から始業時刻までの間、常に労務を提供していたことを裏付ける証拠はなく、Xの供述によっても、出勤後から始業時刻までの間、継続して作業を行っていたものとは認められない。また、FがXに対して交付した文書には「①は7:00出発、②は7:15出発。皆さんはそれに間に合うように出社されています。」と記載されているのであって、被告が、業務命令として出発時刻の30分前の出社を指示していたことを認めるに足る的確な証拠はない
もっとも、出発時刻である午前7時又は午前6時50分より前に、バスの乗務という労務提供の前提となる作業として、アルコールチェック、運行開始前点検(車両を目視及び運転席で確認する。)、運転前チェック項目のチェック等の作業があることが認められ、これらは被告の指揮命令下における労働時間と評価できる。これらの作業に必要な時間は1勤務当たり5分と認める。
原告が勤務したと証拠上認められる日における出発時刻前の労務提供の前提となる作業に要した時間は以下のとおり、合計13時間となり、これに対する未払賃金は1万4300円となる。

アルコールチェック、運航開始前点検、運転前チェック項目のチェックは労働にあたりますので、運送会社の皆様、ご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2159 フォーカル・ポイント#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

ブライアン・トレーシーさんの本です。

人生において、本当に大切なことに「焦点」を合わせることがいかに重要であるかが説かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

あなたが取り組む分野で、頂点に立つための方法をご紹介しよう。『収入の3パーセントを自分自身に投資するという『3パーセントの法則』だ。この法則は、実に不思議な力を持っている!自分に投資する1ドルごとに、仕事がうまくいって収入が増える。最終的には10ドル、20ドル、30ドル、50ドルと稼ぎ、ときには100ドルになって自分のもとに戻ってくることがある。あなたにとって、あなた自身がいちばん価値のある資産なのだ。」(119頁)

真実です。

ほとんどの人はやらないですけどね。

でも、やっている人は、本当に愚直にやっています。

収入は、自らの商品価値との等価交換だと認識し、自己投資を続けることが大切です。

今後、今以上に格差が広がっていくことが予想されます。

日々、努力。

継続は力なり。

賃金288 降格は有効であるが、本俸を減額した点は無効であると判断した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、降格は有効であるが、本俸を減額した点は無効であると判断した事案について見ていきましょう。

住友不動産ベルサール事件(東京地裁令和5年12月14日・労判ジャーナル148号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、Y社が平成30年10月にXを管理職である所長から営業職に降格したこと及びこれに伴う賃金減額は無効であると主張して、Y社に対し、管理職の地位及び資格等級5級の地位にあることの確認、賃金減額により未払となった賃金等の支払を求め、また、平成30年下期から令和4年上期までの報奨金について、本来は管理職の報奨金テーブルに基づいて計算されるべきところ、無効となるべき降格により営業職の賃金テーブルに基づいた金額しか支給されていない等として、報奨金の不足分等の支払を求め、そして、Y社のXに対する言動はパワーハラスメントに該当し、不法行為を構成する等と主張して、不法行為に基づく損害賠償として462万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金請求一部認容

損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、部下に対して威圧的な言動により理不尽な指導を行うなど、管理職としてふさわしくな言動があったことが認められ、現にこのようなXの言動を理由として、少なくとも2名の従業員が退職したことが認められ、これに加えて、Xは、一度は、部下のない地位となったものの、その後に改めて部下を持つようになった際にも、同様の言動を繰り返していたことが認められるところ、Y社においては、このような事情を踏まえ、Xを管理職の地位に配置することはふさわしくないと判断し、本件降格を行ったものと認められ、このことについては、証人kが、Y社にとしては、Xの部下が疲弊しきっていたという状況から、Xから部下を守るということを主眼に置いた判断をした旨証言しているところであり、十分に合理性を有するから、本件降格が使用者の有する人事権の行使に当たって、その裁量の範囲を逸脱又は濫用したものとは認められず、本件降格は有効である。

2 Y社が、本件降格に伴い、Xの本俸を減額した点については、労働契約又は就業規則上の根拠がなく無効というべきであるが、ポスト手当を減額したことは労働契約又は就業規則上の根拠があり有効というべきである。

降格処分が有効であるからといって、当然に賃金の減額が有効となるわけではありませんので注意が必要です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2158 吉田松陰(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

読んでいて身震いがします。

なんというか・・・本当にすごいお方です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

死は好むべきではない。また、厭うべきことでもない。行うべきことは全て行い、もう行うべきことが尽きて、心が安らかである状態。これが死すべきところである。世の中には肉体は生きているが、心が死んでいるものがいる。また、肉体は滅びていても、魂が生き続けているものがいる。心が死ねば、生きていても意味はない。魂が生き続けていれば、肉体は死んだとしても意味がある。」(391~392頁)

享年29歳。

20代にしてこの人生観です。

行うべきを行うという強い気持ちが読み取れます。

大勢に反して自分の信念を貫いて生きるのか、

長い物に巻かれ、権力に忖度して生きるのか。

人によって価値観は異なります。

自分の人生のフィロソフィーがわかっている人は、人生を無益に過ごすことがありません。

労働時間109 飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

月光フーズ事件(東京地裁令和3年3月4日・労判1314号99頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し就労していたXらが、Y社に対し、労働契約に基づき、X1につき①平成28年10月分から平成30年9月分までの未払割増賃金合計1999万9769円並+遅延損害金、②平成30年6月分から平成30年9月分の未払月額賃金合計20万円+遅延損害金及び③上記未払割増賃金に係る労基法114条に基づく付加金として平成29年4月分から平成30年9月分までの法外割増賃金相当額である1468万1415円+遅延損害金の支払を求め、また、X2につき④平成29年5月1日から平成30年12月31日までの期間分の未払割増賃金から既払額を差し引いた残額合計492万6670円+遅延損害金及び⑤上記未払割増賃金に係る労基法114条に基づく付加金として平成29年11月分から平成30年9月分までの法外割増賃金相当額である455万8363円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、2072万0714円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、20万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、1468万1415円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、489万1905円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、453万0871円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、同労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
本件においては、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間においても、Xらが業務に当たっており、業務以外の理由で店舗を離れることはできなかったことからすると、当該時間はXらがY社の指揮命令下にあった時間帯というべきであり、労働時間に該当すると解するのが相当である。

2 本件就業規則及び本件給与規程の施行日の月日は空欄となっており、また、X1及びX2ともに本件就業規則等を見たことがなくその説明を受けたこともないと述べていることからすると、本件就業規則及び本件給与規程がいつから施行されたものであるのか、現に施行されているのか、周知がなされているのか、明らかでないと言わざるを得ない。そして、仮に本件就業規則が有効であるとしても、本件就業規則においては毎月1日を起算日とし、所定労働時間を1か月を平均して週40時間以内とする1か月単位の変形労働時間制による労働をさせることがある旨規定されているが、各日、各週の労働時間は前月末日までに勤務表を作成して従業員に周知することとされており、それ以上の詳細な定めはないため、各日の勤務時間やその組み合わせ等が勤務表においてどのように定められるのか就業規則から推認することができない。また、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書にも1か月単位の変形労働時間制に関する記載があるが、本件就業規則以上の詳細な規定はない。さらに,実際に作成されているシフト表を見ると、各従業員の各日について記号が付されているものの各記号の示す始業時間及び終業時間並びに休憩時間がシフト表上一義的に明らかでなく、各日の勤務時間がシフト表上明らかにされているとはいいがたい上、仮にシフト表上「○」と記載されている部分の一日の勤務時間を8時間と解したとしても、例えば平成29年10月分のシフト表ではX1につき「○」が27日あり合計216時間、X2につき「○」が24日あり合計192時間となり、1か月の変形労働時間制における労働時間の総枠(1か月31日の月では177.1時間)を超えたシフト表が組まれている
これらの点からすれば、Y社の主張する変形労働時間制が有効であるとは認められない。

休憩時間、管理監督者、変形労働時間制、固定残業制度のいずれも否定されました。

特に管理監督者と変形労働時間制は有効に運用するのは至難の業です。

また、飲食店において、上記判例のポイント1のような運用がなされていることは珍しくありませんが、法的には休憩時間とは評価されません。わかっていてもマンパワー的に無理なことも理解しております・・。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2157 思うは招く#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には、「『どうせ無理』に負けないで。夢を、自分を、あきらめないで。」と書かれています。

とにかくやりたいようにやってみればいいのですよ。

他人がとやかく口出しする必要などありません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

個性を求めない社会では、ショッカーの戦闘員で十分役に立ってしまうのです。だから僕は、『ショッカーにされないように頑張ってね』と子どもたちに話します。」(170頁)

ショッカーでは高い報酬を得ることはできません。

他にも多くの代替要員がいるからです。

みんなと同じでいいというマインドは、まさにショッカー要員と親和性があります。

高度経済成長期であれば、それでよかったのかもしれませんが、今は昔です。

先行きが明るくないこの時代において、みんなと同じであることのメリットはほとんどありません。

目立たないように、角が立たないように、批判されないように、嫌われないように、目を付けられないように・・・(笑)

これではいつまでたってもショッカー要員から抜け出せませんし、こんなことを気にしているうちに人生は終わってしまいます。

YOLO

解雇416 機密情報の私的領域への複製等を理由とした退職予定者の懲戒解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、機密情報の私的領域への複製等を理由とした退職予定者の懲戒解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

伊藤忠商事事件(東京地裁令和5年11月27日・労経速2554号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を退職予定であったXが、令和2年7月3日付け懲戒解雇の無効を主張して、Y社に対し、①本件懲戒解雇が無効であることの確認を求めるとともに、②不法行為に基づく損害賠償として本件懲戒解雇の翌日から退職予定日までの給与等に相当する逸失利益及び慰謝料の合計1323万2143円+遅延損害金並びに③退職金として70万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、Y社がXに対して行った令和2年7月3日付け懲戒解雇の無効確認を求める部分を却下する。
 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則には、職務上知り得た会社及び取引関係先の機密情報を不正に第三者に開示又は目的外に利用すること、その他情報管理規程に違反した場合を機密保持違反として懲戒事由に該当すると定められている(就業規則66条5号)。そして、Y社は情報管理規程及びその下位規則において、機密情報の保持の厳守を定め、機密情報を管理責任者の許可なく複写(複製)することを禁止し、電子化情報の保管・保存には被告が一元管理する会社標準のオンラインファイルストレージ基盤を利用すべきこと等の規律を設け、イントラネットで周知を図ると共に、社内通達で注意喚起するなどして、機密情報の流出・漏洩防止を図っていたものであり、そのことを従業員も認識可能であったということができる。
また、Y社では、Y社Box環境を採用し、所属部署ごとのアクセス制限を行い、本件データファイル1については、プラント・プロジェクト部に所属する従業員にアクセス権限を設定しており(Xには異動後の暫定措置としてアクセス権限付与)、Y社Box環境へのアクセスについても、貸与PCか、Boxのアプリケーションがインストールされた私物スマートフォンやタブレットから、IDとパスワードの入力や、ワンタイムパスワードの入力を要求するなどのアクセス制限措置がとられていた。
2 他方で、証拠によれば、プラント・プロジェクト部内においては、部員が自らの所属課以外の課の案件に関する情報が保存されているフォルダにアクセスすることは可能であったことが認められる。この点、C室長は、各課の共有フォルダにアクセスする場合には、当該フォルダを管理する課の課長などから許可を得るという運用であった旨証言しているが、そのような運用を定めた文書や申請書式は用意されておらず、自身が課長職にあった2年間で一度も申請されたことがないとも証言していることからすれば、共有フォルダに保存されている情報の閲覧範囲は、部内においては事実上制限されていなかったことがうかがわれる。つまり、本件データファイル1が保存されていたY社Box環境は、プラント・プロジェクト部に所属する従業員約50名が、自身の担当案件とは関係なくアクセスできる状況であり、閲覧する情報の範囲についても事実上制限はされていなかったことになる。そして、本件データファイル1が保存されていたフォルダには、極めて多数・多量のデータファイルが保存されており、その中には、同一の用途に用いる作成途上の様々なバージョンのファイルや、過去に利用したレストランの一覧のフォルダなど、およそ機密情報に当たらないものも含まれるなど、ファイルごとの機密性の程度に相当な幅があったこともうかがわれる。
加えて、情報管理規程における機密情報の定義は抽象的で、従業員において、その対象となる機密情報か否かが一見して明らかなものとはいえない状況であった。さらに、個々のファイル等に機密情報であること(例えば、極秘やConfidentialといった記載)が明示されていたとか、情報を取り扱う担当者内でのパスワードによる秘密管理措置が施されていた等の事情も、これを認めるに足りる証拠はない
3 このような就業規則並びに情報管理規程及びその下位規則の定めやY社Box環境における情報の管理・保管状況をも踏まえると、機密情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理されていたとはいえず、本件データファイル1について秘密管理性を肯定することは困難というべきである。
以上によれば、本件データファイル1について「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当すると認めることはできない。

秘密管理性要件の厳しさがよくわかります。実際、営業秘密として保護するのであれば、実務上の利便性はかなりの部分捨てなければなりません。このトレードオフを甘受できるかどうかだと思います。

なお、懲戒解雇自体は別の懲戒事由の規定により有効と判断されています。

解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。

本の紹介2156 限界の正体#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「自分の見えない檻から抜け出す方法」です。

また、帯には「自分の役割を演じるのをやめて心のブレーキを外す。」と書かれています。

結局、限界なんてものは、都合よく自分で作っているものであって、純主観的なものです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

いかなるときも、自分の可能性を信じられる人になること。考えすぎて、動けなくなる『限界の檻』から脱し、自分の限界を、自分で引き上げて、チャレンジし続けられる人、すぐに行動に移せる人。それこそが変化の激しい時代に生き残っていける人だと、僕は信じています。」(28頁)

まさにこれが、限られた時間の中で成果を出している人の特徴です。

考えることと動くことは、同時進行的に行われているのです。

じっくり計画を立てて・・・なんて悠長なことをしている間に、状況が変わってしまいます。

のんびりするのはおじいちゃんになってからで十分です。

刻一刻と砂時計の砂は落ち続けています。

何かにチャレンジしているその瞬間こそが、生きていることを実感できる瞬間なのです。

有期労働契約129 定年後再雇用者への労働契約法19条2号による更新期待がないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、定年後再雇用者への労働契約法19条2号による更新期待がないとされた事案を見ていきましょう。

東光高岳事件(東京地裁令和6年4月25日・労経速2554号3頁)

【事案の概要】

本件は、A社との間で期間1年の有期労働契約(本件契約1)を締結していたXが、Aを吸収合併したY社に対し、本件契約1の期間満了時、Xには更新の合理的期待があり、本件契約1と同一の労働条件によるXの更新申込みをY社が拒絶したことは客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められないため、本件契約1の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約2)が成立した、また、同様の理由で、本件契約2の期間満了時、本件契約2の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約3)が成立した、本件契約3の期間満了時、本件契約3の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約4)が成立したと主張して、Y社に対し、以下の請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労契法19条2号の「更新」とは、従前の労働契約、すなわち直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することをいうと解される。
なぜならば、労契法19条2号は、期間満了により終了するのが原則である有期労働契約において、雇止めに客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で労働契約を成立させるという法的効果を生じさせるものであるから(同条柱書)、その要件としての「更新」の合理的期待は、法的効果に見合う内容であることを要すると解されるからである。
また、労契法19条2号は、最高裁判所昭和61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁(以下「日立メディコ最高裁判決」という。)の判例法理を実定法としたものであるところ、同判決は、雇用関係の継続が期待されていた場合には、雇止めに解雇権濫用法理が類推され、解雇無効となるような事実関係の下に雇止めがされたときは、「期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる。」としており、これが条文化されたものであるから、ここでいう「更新」は、従前の契約の労働条件と同一の契約を締結することをいうと解しているものと理解できる
さらに、更新は、民法の概念としては、契約当事者間において従前の契約と同一の条件で新たな契約を締結することをいうと解されるところ(雇用契約につき民法629条1項、賃貸借契約につき同法603条、604条、619条1項、ただし、期間については従前の契約と同一ではないと解されている。)、労働契約(労契法6条)と雇用契約(民法623条)とは同義のものと解されるから、労働契約において民法の概念と異なる解釈をとる理由はない
日立メディコ最高裁判決が、更新の期待の合理的な理由を肯定するに当たり、有期労働契約が従前の契約に至るまで継続して締結されてきたことを考慮要素とする一方、これが同一の労働条件によるものであったかは重視していないこと、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないことから、過去の契約関係において賃金などの労働条件に若干の変動がある場合であっても従前(直近)の労働契約と同一の労働条件で更新されると期待することに合理的な理由があるといえる場合があると考えられる。そして、ここで検討している労契法19条2号の「更新」とは何かという問題は、期待の合理的理由の考慮要素としての過去の労働条件変動を伴う契約締結が「更新」に当たるかという問題ではなく、雇止めに解雇権濫用法理を類推適用し、雇止めに客観的合理的な理由がなく社会通念上相当性がない場合には従前と同一の労働条件で契約の成立を認めるという法的効果を生じさせるための要件として、どのような労働条件の契約締結について合理的期待を要求するかという問題である。したがって、日立メディコ最高裁判決が、「更新」の期待の合理的な理由を肯定するに当たり過去の有期労働契約が同一の労働条件によるものであったことを重視しておらず、有期労働契約が継続して締結される場合の実態として、労働条件について順次の微修正が行われることは通常の事態であって、これが期待の合理性に大きな影響を与えるものとは解されないからといって、労働者が解雇権濫用法理を類推適用されるための要件としての期待の合理性の対象となる「更新」について、従前の(直近の)労働契約と同一の労働条件ではなくてよいという帰結に直ちになるものではない。
そして、仮に、労契法19条2号の「更新」を同一の当事者間の労働契約の締結と解し、労働条件を問わず同一の当事者間において労働契約が締結されると期待することについて合理的理由があれば解雇権濫用法理の類推適用がされるとした場合、使用者が、従前(直近)と同一の労働条件による労働契約の締結を拒否し、従前の労働契約より不利な労働条件での労働契約を提案し、労働者がこれを承知しなかった場合には、使用者の労働条件変更の提案に合理性があったとしても、雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性があるといえない限り、従前(直近)の労働契約と同じ労働条件による労働契約が成立する結果となり、有期労働契約の期間満了の都度、就業の実態に応じて均衡を考慮して労働条件について交渉すること(労契法3条1項、2項)は困難となるから、労働契約における契約自由の原則(労契法1条、3条1項、2項)に反する帰結となる。そして、このような場合において、原告主張のように、労契法19条柱書の雇止めの客観的合理的な理由、社会通念上相当性の審査において、使用者の労働条件の変更提案の合理性が斟酌され、使用者の労働条件の変更提案の合理性が肯定されるときには雇止めに客観的合理的な理由、社会通念上相当性があることが肯定され、雇止めが有効となるといった解釈をとる場合、雇止めについての解雇権濫用法理の類推適用を法制化した労契法19条柱書の適用において、その由来及び文言とは異なって、使用者による労働条件の変更提案の合理性といった考慮要素を新たに取り入れる結果となるが、そうすべき根拠は必ずしも明らかではない。無期労働契約においては、使用者が労働者に対し労働条件の変更提案を行い労働者がこれを拒否した場合に解雇するという変更解約告知について、解雇権濫用法理(労契法16条)の下、使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば解雇を有効とするという解釈は未だ定着しておらず、使用者による労働条件の変更提案の合理性審査基準が確立していない今日において、有期労働契約において使用者による労働条件の変更提案に合理性があれば雇止めを有効とするという解釈を採用することは、有期労働契約における当事者の予測可能性を著しく害する結果となる。
以上から、労契法19条2号にいう「更新」は、従前の労働契約と同一の労働条件で有期労働契約が締結されることをいうと解するのが相当である。

この裁判例によれば、労契法19条2号の「更新」を直近に締結された労働契約と同一の労働条件で契約を締結することを解釈になりますが、はたして本当にそうでしょうか・・・?

労働条件を変更した有期雇用契約の再締結が更新に当たらないとなると、5年ルールはいとも簡単に潜脱できてしまう気がしますが。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。